女神降臨-究極のラブドール第1回

那須藤鷹18歳。健全を極めた童貞の中の童貞である。
 俺は現在、玄関にて正座待機をしている。
「来る……ついに来る……念願の……マイドール……!!」
 俺が手にしているスマホ画面には、
 「本日中にお荷物が届きます」という内容のメール。
 注文品の配送会社からだ。品物の詳細も載っている。
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O社製造
 TYPE【フェアリィ】
 身長    135cm
 重量    20kg
 髪     ベイビーピンク
 瞳     アーバンブラウン
 バスト   小
 指骨格機能 有
 Uヘア植毛  無
 オプション 幻想服/ライトブルー
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 一人暮らし3日目。
 俺は高校時代にアルバイトで貯めた53万円で、
 O社ラブドール【フェアリィ】を購入した。
 実家暮らしの男がラブドールを購入するリスクは計り知れない。
 俺はラブドールの為に一人暮らしを始めようと決意し、
 高校卒業までの一年間必死に働き、実行にうつした。
 そして現在、
 そのフェアリィたんが我が家にやってくるのを今か今かと待っている。
 ピン……ポン!
 安アパートのインターホンが鳴った。
「……!!」
 心臓が大きく跳ねる。
「き……ききき……きた……!」
 俺は恐る恐るドアスコープを覗く。
 見覚えのある配送会社の制服を着た、中年男が立っていた。
 深呼吸をしながらドアをゆっくり開ける。
「こんにちわー。お荷物ですぅ。サインか印鑑お願いしますぅ。」
 油ぎった中年男の横に鎮座する長方形の巨大段ボールに目がいく。
 もはや俺の心臓は釣り上げられた鯉のようにのたうち回っていたが、
 俺は必死に平静を装った。
 まるでこの世の全てに無関心であるとでもいうような表情で、
 中年男に渡された紙にサインした。

ラブドール

 しかし緊張のあまり手の震えが抑えられず、
 俺の名前は白滝しらたきでも撒き散らしたかのように不細工な格好となった。
「中まで運びますかー?」
 おっさんがやたら太い声をかけてくる。
「いや……いいっす……自分で……」
 悪いが、とっとと帰ってほしい。
「あざしたー」
 おっさんは軽く帽子を抑えると、ささっと小走りで、車へと乗り込む。
 そして、発進。
「……」
 本当はすぐにでも雄叫びを上げたかったが、グッと堪えて巨大段ボールをそっと抱える。
 かなりの重量だった。しかし、その重みは確かな存在感に他ならない。
 腰にまで響く段ボールの重量を、ありがたく噛み締める。
 そのまま玄関扉を抜ける。
 そして6畳の自室中央にそっと置いてやる。
 ついに我が屋にやってきた。
 念願のマイドールが。
 俺は大きく息を吸い込み……
「……き、キタァァァァアアア!!」
 咆哮。
「わくわくわくわくわくわく!!!」
 俺の荒ぶった鼻息でカーテンが揺れていた。
 興奮状態のまま「ここから開けて下さい」の部分を激しく剥き破る。
 すると、隙間から女性の下半身らしきものが目に飛び込んだ。
「ぴょほぉぉぉほっほぉお!」

ラブドール

 気が狂いそうなほどテンションが上がった。
 そしてその勢いで段ボールを荒々しく開封すると、
 その可憐な聖女の全貌があらわとなった。
「う……美しいぃ……美しすぎる……」
 聖女は産まれたままの姿で、
 どこかの姫のように目を閉じ深い眠りについているようだった。
 聖女を包んでいたビニールを剥がし、
 その窮屈な棺桶のような段ボールから救い出してやる。
 ごくりと唾を呑み込み、その麗うるわしい頬に触れてみた。
 想像以上に生々しい感触……。
 さすが最大手O社のラブドール。物凄い技術力だ。
「これが……女の子の肌の感触かあ……」
 俺は、ズボンに抑えられピサの斜塔となって苦しむムスコをズボンの上から握りしめ、
 右へ左へストレッチ、そして中央へとポジションを正した。
 ムスコは姿勢よく誇らしげに起立していた。
「く……抑えきれん……ぬぅぅぅうううおおおお!!」
 ついに我慢ができなくなった俺はラブドールを思い切り抱きしめた。
 柔らかく、吸い付くような肌の感触。
「な……なんだこの心地よさ……あぁぁああ……たまんねえ……まるで本物の女子……いや……本物以上……最高だぜぇぇぇえええ……!!!」
 本物の女子など知らない俺だが、そんなことは関係なかった。
 女の子を抱きしめるその初めての感触をひたすら楽しむ。
 幸せだった。
 幸せで胸がいっぱいだった。
「はぁぁ……最高……ふにふにしてて……きもっちええ……」
 俺の姿は気持ち悪いだろうが、そんな事どうでもいい。
 俺は目を閉じる。そして、想像する。
 この子はただのラブドールでは無い……俺の恋人……
 俺はこの子の事が大好きで、この子も俺の事が大好きなのだ……
 そう想像するだけで触れ合っている肌がだんだん熱くなってくる……
 あとチ●チンも熱い……
 ほら、彼女の匂いだって感じてくる……
 甘美で……刺激的で……俺の脳が溶けていく……
 まるで麻薬のような香り……吸い込むたび身体中が喜んで震える……
 チ●チンがジンジンする……チ●チンがジンジン……チンジンする……
「あぁ……女神よ……俺の女神よ……君の為なら俺は命だって惜しまない……」
 俺は神に誓った。
 すると彼女は、とろけるような甘い声で俺の耳をくすぐった。

ラブドール

「本当……?嬉しい……っ」
 ……
 おや……?
 ラブドールのようすが……?
 ……
「今日からよろしくねっ……マスター……」
 ……ふぇ?
 何やら可愛らしい少女の声が聞こえてるような……。
 いやまさか、と俺は微笑む。
 そう、想像力だ。
 俺の想像力が生み出したんだ。
 さすが俺。この調子で彼女と幸せな新生活を楽しもう。
 俺は彼女に応えた。
「あぁ、よろしくな!」
 俺は目を開けた。
「よかった!マスターがさっそく乗り気で!」
 間違いなく喋っていた。
 喋っていたし、目の前5.8cm先で可憐な少女の瞳は生命の輝きを放ち、
 暖かな吐息が俺のアゴをくすぐった。
「……」
「あれ? マスター?」
「……」
「あ……気絶してる」
 俺の意識、さよならバイバイ。