チャイナドールの進化ー後編

粗末なものを作っていたメーカーの従業員が退職して、自ら起業するケースが後を絶たなかったのです。新しく立ち上がった会社は、品質向上を目指した。中国は出る杭は打たれるのではなく、出た者が勝ち。我先にと競って品質向上に努めた結果、目覚ましい成長を遂げた(業界関係者)という。

一つのケースを挙げると、会社を辞める前に、その会社の金型をパクッて、そこから事業を始める。圧倒的に低コストなので、そこで生まれた利益を、技術向上のために投資する…こうしたある意味で脱法的な競争原理が働き、市場が成長していったのです。今ではラブドールの骨組だけを製作する会社まである。市場規模は、日本の数倍以上あるのではないか

魑魅魍魎の業界だからこそ、もちろん安全性を無視した粗悪なメーカーもある。肌の素材に廃シリコンを使用したり、問題アリと言われるTPE熱可塑性エラストマー)を使用した製品があったり…。前出の柏木代表も「うちでは売っていませんが、安いだけの商品は危険です。10万円以下のドールは、安全性を無視している可能性があるので気を付けたほうがいいと思っています」と警鐘する。

粗悪品もある一方で、リアルを徹底追求して中国最大手まで急成長したメーカーがある。それが、広東省に本社を置く「人造人科技」(RZRDOLL)だ。

同社の設立は2016年。わずか5年前でラブドールのトップ企業に成長した。しかも、300人いる従業員を抱えるCEOの一刀氏は30代後半という若さだ。

300人のうちのほどんどが職人で、ハリウッド映画『バットマン』や『メン・イン・ブラック』などの小道具やフィギュアの特殊メイクが本職だとか。富裕層向けにドールを製作したのを機に、ラブドール部門が出来たと聞きました。このCEO自身も生粋の職人肌であり、いわゆるオタク。等身大のフィギュアが欲しくてラブドールの部門を新たに作ったそうです(柏木代表)

同社のラブドールの最大の強みは、白く透き通った肌の製造。人間のように薄っすらと見える毛細血管まで造っている。手に触れたときの肌の質感も、怖いぐらいに人間に似ているのだ。

コロナ禍でステイホームが定着する今、ラブドールは本来的なニーズとは違うところからも「ラブコール」があるという。柏木代表が明かす。

新たな顧客から問い合わせが増えていて、その一つが性風俗産業です。最近、コロナの関係もあってか、女性を募集しても思うように集まらないそうです。そこで、ドールでお客さんのニーズを満たせないかと、全国の業者さんから問い合わせがあるのです。実際にどう使うのかはわかりませんが…(苦笑)。

また、中国ではメイクの練習や介護の練習にとドールを購入する女性も増えているそうです。アニメが好きな女子がドールにコスプレをして、それを撮影する新たな市場も生まれています。いずれも、『リアル』を追求した結果生まれてきた新たなニーズですよね

14億人を抱える巨大市場の中で独自の発展を遂げる「チャイナドール」の世界。日本はこの分野でも、遅れを取ることになるのだろうか…。