芸術に達したか、「ラブドール」は?(後編)

美術館に収蔵されても不思議じゃない

 山下さんは、明治時代の頃に見世物のため人間そっくりに作られた「生人形(いきにんぎょう)」が近年、美術品として再評価されていることを挙げ、「ラブドールは『現代の生人形である』と僕は思っています。将来的に、美術館に収蔵されても何も不思議じゃないと思いますよ」と言います。
 「工場見学をしましたが、素晴らしい人形を送り出したいという職人の熱意にあふれていました」といい、作品として自分の名前を残そうという狙いがない点が、暮らしの中で人が使うための道具に美を見いだす「民芸」の世界と共通するとも評します。

 

使い手への気遣いが技術力に直結

 同画廊のラブドールの展覧会は、今回で5回目。毎回、女性客が多く訪れているそうです。
 近年ラブドールは、杉本博司さんやアメリカのローリー・シモンズさんなど現代美術家が作品に用いる例がありますが、スタッフの大沼瞳さんは「ドールそのもののかわいらしさと、アートとしての価値をお伝えしたい」と言います。
 「ラブドールは1点ものではなく、量産品。皆に愛される顔やプロポーションが研究され、使い手への気遣いが技術力に直結している点もすばらしいと思います。視覚も触覚も満足できて、人に幸せをあげられる存在。実際に、展覧会でドールに触った人はみんな口元がゆるみ、幸せそうに見えます」。

約40年の歴史、手作業の結晶

 オリエント工業ラブドールの製造を始めたのは1977年。展覧会には、82年につくられたドールや、これまで同社が手がけてきたモデルをまとめた年表も展示されています。
 ドールの体部分の造形を担当している大澤瑞紀さんに、工場を案内してもらいました。
 首から下の身体は、骨組を入れた型にシリコンを充てんし、電気炉で熱してつくっているそうです。顔は女性スタッフが、ひとつひとつ丁寧にメイクをして、仕上げていました。


 大澤さんは芸術系の大学で彫刻を専攻したといい、「高校生の頃、自分で作った陶器を実際に使ってみて、魅力を感じたのが自分の原点のひとつ。お客様に楽しんでもらうための製品で、アート作品ではありませんが、芸術性を評価してもらえるのはうれしいです」と話していました。