コロナ流行でラブドール売り上げ急増 理由は孤独以外にも

新型コロナウイルスの流行に伴う隔離措置が始まって以降、ラブドールの売り上げが急増している。ある会社は、需要に対応するために増員を計画しているほどだ。

セックス・ドール・ジーニー(Sex Doll Genie)社では、2月と3月の独身男性からの注文が51.6%増加、4月のカップルからの注文は前年比で33.2%増加した。

共同創業者のジャネット・スティーブンソンは、「多くの商品在庫があるが、処理が需要に追い付けていない」と説明。「人材採用を急ピッチで進めており、米国と欧州の両方で注文処理と顧客サポートの新たな役職をいくつか作った」と述べた。

需要急増は当然のことにも思える。新型コロナウイルスパンデミック(世界的大流行)の中で、多くの人はひとりきり、あるいは愛するパートナーと離れ離れとなっている。ばかにするのは簡単だが、そばに人間がいないときに人形に慰めを求めるのは、おかしなことではない。

コンピューター科学者のケイト・デブリンが最近の著書『Turned On:Science, Sex, and Robots』で指摘しているように、ラブドールは独身男性と結び付けられて考えられがちだが、実際にはカップルや障害者、社会的に孤立した成人の子どもを持つ親も頻繁に購入している。

歴史的に見ても、人々は驚くほど速くテクノロジーを擬人化できることが分かっている。人工知能(AI)の先駆けとなった1966年の自然言語処理プログラム「イライザ(ELIZA)」は、現在の基準で考えると未発達で、短い対話しかできなかった。それでも人々は、これがコンピュータープログラムであることを知りながらもすぐに引き込まれた。使用者はイライザに礼儀正しく接し、多くの人は人間と交流するよりもイライザと交流することを好むと答えた。

英国のAI専門家デービッド・レビーは、AIなしでも人がテクノロジーに強い愛着を感じることを指摘した。彼は著書『Love and Sex with Robots』で、ロボット犬のアイボ(AIBO)の初期モデル所有者に関する研究を紹介している。研究では、非常に多くの飼い主がロボットのペットに本物の感情や意図的な行動があると考えていたことが分かった。

レビーは「人々はAIBOを本物のペットだと考えたがり、そのためAIBOに犬のような感情があると考える」と述べている。

人がロボット犬やアザラシ型セラピーロボットのパロ(Paro)から癒しが得られるのなら、人形でもいいではないか? セックスに関するテクノロジー製品を持つことに関するスティグマは、他のテック製品よりもはるかに大きい。だが、他のアダルト商品と比べるとどうだろう? ラブドールを大人のおもちゃの一つとして捉えられるようになれば、今回の売り上げ増加を少し違った視点から見ることができるかもしれない。


大人のおもちゃメーカーのCMGレジャー(CMG Leisure)も、新型コロナウイルスパンデミック中に売り上げが増加し、人員不足に陥った。同社のワンド型バイブレーターの価格は112ドル(約1万2000円)であるため、売り上げが増加したのは、他の楽しみが少ない今、高級製品を奮発して買っている人がいることによるものだろう。

実物大の全身ラブドールの価格は800ドル(約8万6000円)前後からで、高いものでは8000ドル(約86万円)もする。これまで多くの人は、ラブドールを試してみたいと思いつつ、その価格に躊躇していたかもしれない。隔離生活中は気分を高めるため、あるいは今なら頻繁に使えるという理由から太っ腹な気持ちになるのかもしれない。

あるいは、ただの純粋な好奇心によるものかもしれない。3月に売り上げ増加を報告した多くのアダルト商品販売業者は、その背景には「新しいものを試したい」願望があったとの見解を示した。スティーブンソンによると、セックス・ドール・ジーニーが受ける注文は、独身の男性や女性のみならず、一緒に隔離生活を送る中で新しいものを試したいカップルのものもあるという。

「この需要大幅増について面白いのは、注文者の層も変わっていること。これはラブドール業界にとって非常に良いことで、家の中での考え方が変化していることを示している」とスティーブンソン。「独身者が最後の手段としてラブドールを選ぶというこれまでのステレオタイプは完全に間違っている。今では、男性と女性の両方が寝室に人形を持ち込むことに乗り気となり、ラブドールの使用が主流化している」

これがラブドールブームにつながるかどうかは分からない。出会い系サイトのアダルト・フレンドファインダー(Adult FriendFinder)が会員を対象に行った最近のアンケート調査によると、パンデミック中にラブドールの購入を考える「可能性が高まった」と答えた回答者は12%だったが、「絶対に」購入すると答えた人はわずか5%だった。さらに、「自己隔離により、人から触れられることに代えられるものはないと改めて気づいた。ラブドールは絶対に買わない」という文に同意した人は62%だった。

デブリンは著書の最後で、ラブドールがメインストリームの人気を得ることは想像できないとし、「現在の非常にリアルで非常に性的なガイノイド(女性型ロボット)は小規模なニッチ市場となるという見解に傾いている」と結論した。

それでも、そのニッチ市場は今、盛況となっている。