《ラブドールは胎児の夢を見るか?》って画像ー後編

展覧会で作品を目にした人からはどんな反応がありましたか

 「似ている」「セルフポートレートですか」と言われました。私自身、ラブドールに感情移入している部分はありますね。昨夏に発表した「The Forever Love」というシリーズでも、私が実際に結婚パーティーで着用したウェディングドレスアクセサリーを着せて「結婚写真」を撮ったりしていますし。

 展覧会では、世代や性別によって相当反応が分かれました。「女性の尊厳を表している」と解釈してほめてくださった年配女性もいれば、少数ですが「妊婦はエロだよね」という男性もいました。
縦223センチ、横152センチと実物よりも大きな写真で、かなり背の高い人でも作品を見上げないといけない設定にしたので、「女神のような荘厳さ」を連想した人が多かったですね。なかには、会場で「子ども産みてー!」と叫んでいた女子高生もいたらしいです(笑)。
 こうした多様な反応はまったく予想していなかったので、驚いています。自分としては「人間の女性から生殖が切り離された未来」を想像し、「生命とは何か」「人間とは何か」を考える目的でつくった作品。「女性の尊厳」というところまでは想定していませんでした。同時に「エロ、いいね!」みたいな人もいるわけですから。
 マタニティー・ヌードという表現自体が「芸術かわいせつか」という問いを含んでおり、ラブドールにも同様に「エロかアートか」という論争があります。
 私自身は「わいせつだからアートじゃない」「アートだからわいせつじゃない」とは、言えないと考えています。「女性に向けてやっています」というポーズのマタニティー・ヌードの写真集でも、アマゾンのレビューを見ると「すごくエロかったです」と男性目線で書いてあったりする(笑)。ミロのビーナスを見てセクシーだと感じる人もいれば、何も感じない人もいますよね。

アンドロイドが妊娠したら

「人間の女性から生殖が切り離された未来」というテーマについて、少し掘り下げて説明していただけますか。
 すでに日本の大学でも、ヤギの胎児を人工子宮で育てる実験が行われています。かたや米国では人工知能を搭載したラブドールの開発が進められているそうです。
 昨年見に行ったあるアンドロイドのシンポジウムで、印象的な場面がありました。女性型アンドロイドが来場者の質問に答えるというデモンストレーションで、「将来の夢を教えてください」という質問に、そのアンドロイドは「30歳までに結婚して、子どもを2人持って幸せな家庭を築くことです」と回答したんです。
 みんな笑っていたけど、私はかわいそうだな、と感じてしまった。批判したい気持ちはまったくなくて、それが一般的な反応なのだとは思いますが。
 人工子宮の技術を人間に応用するとなれば倫理的問題が大きいですし、仮に実現したとしても女性の見た目をとることはないでしょう。でも、代理母のような生殖の外部化が進むなか、人間に近いアンドロイドがどんどん開発されている状況を踏まえると、「アンドロイドが妊娠したら…」という発想自体は自然に浮かぶものじゃないかな、と思うんです。
そうやって技術や機械が人間の領域に近づこうとする一方、人間の女性の側は逆に人工的なものに引き寄せられてきている……と指摘していますね。
 プリクラを撮れば自動的に目が大きく、肌が白くなり、マンガ的にディフォルメされる。セルフィーを加工して、足を長くしたり、あごを細く見せたりすることもできる。最近では、アイドルの自撮りに「ラブドールみたいでかわいい」というコメントがついたり、女性が「ラブドールメークしてみました」と肯定的な意味で発信したりすることもあります。「人造乙女博覧会」の来場者も、実は女性の方が多いんです。
 プリクラ的に加工されていく女性の見た目と、人間に近づいていくラブドールの姿というのは、一つの交点で重なり合うのではないでしょうか。

女性がモノ扱い、まったく逆ですね

男性が思いのままにできるラブドールは、女性がモノ扱いされることを助長する」という批判については、どう思いますか。
 まったく逆ですね。所有してみて思ったのは、ラブドールは要求してくることがめちゃくちゃ多いんです。切れてしまうから固いものの近くには置けないし、色移りしてしまうから安物の服は着せられない。シリコンからにじみ出てくる油分を、ベビーパウダーをはたいてとってあげる必要もあります。
 相当丁寧に、柔らかく接してあげないといけません。何でも思い通りになるということはなく、むしろ愛情を掛けた分だけ返してくれる存在です。

 ラブドールをすごく愛しているユーザーさんのなかには、性行為をしない人もいると聞きます。「里帰り」といって、メーカーは不要になったラブドールを回収して人形供養に出しているのですが、どこに傷がついているか、どの部分の関節が緩くなっているかで、大体どういう行為をしていたかわかるそうなんです。
 長く所有していたユーザーさんほど、キレイに戻ってくると。大事にしているから、汚れたり壊れたりするのが嫌なんでしょうね。
 ――最後に、今後の抱負をお聞かせください。
 ラブドールを使った作品も、それ以外の作品も考えています。女性の表象や「美とは何か」という問題が自分の核にあるので、その軸はブレずにやっていきたいと考えています。