母にドールのように着せ替えられていた娘のリアルの結局!

母は昔からロリータファッションが好きでロリータ世界に夢中だった。私の名前は「アリス」命名したのは母、あの「不思議の国のアリス」が由来。
私は幼いころからずっと母の着せ替え人形で毎日ドレスのような服ばかり着せられていた。母は洋服を汚されるのを嫌がり、私は外に遊びに行くのを禁じられていた。
母:アリスはおうちで本を読むものよ、アリスも本がすきでしょう?
アリス:でも、ブランコ乗ってみたい
母:ブランコ?いいわよ、今度撮影用のブランコに乗せてあげる。飾ってあるのよ。
アリス:・・・
小学校ではジャージを着せたくないという理由で体育は毎回見学、運動会や遠足も「日に焼けるから」といって不参加だった。そんな私は小学校でも浮いていて、友達らしい友達もいなかった。
毎朝、鏡の前で私の髪を人形のようにセットしながら、母はうっとりと囁く。「アリス、なんて可愛いんでしょう。ママはもっとあなたを可愛くしてあげますからね。」。
仕事で海外に行くことが多い父は、家にはあまりおらず、だから私にとって母の言葉は絶対だった。母は優しいけれど、怖い人だった。学校でも家庭でも一人だった私は、母の愛に応えることが私の命綱だと思っていた。けれど、皮肉にもわたしは母の望む可愛い娘にはなれなかった。私は背の高い父に似てしまい、中学に入るころには165cmを越えてしまった。母は小さくて可愛い、それこそ妖精やお姫様のような女の子を望んでいた。そんな母にとって私の成長は裏切りに等しく、許せないものだった。
アリス:ママ、足が痛い、新しい靴を買って?
母:だめよ、可愛い靴が入らなくなるわ。
アリス:でも、歩くたびに痛くてつらいの。
母:絶対だめ!これ以上足が大きくなったら、可愛くないでしょう!
母の真剣な顔に私は何も言えなくなった。これ以上成長したら、母が悲しむ。私は小さな靴を我慢して履いた。だが私の背は止まらず中2で173cm、肩幅も広くなり、ロリータ服が似合わない体型になっていた。
母:もう食べてはだめよ。一日に食べていいのは朝だけ、昼と夜は必ず抜くこと。
アリス:給食も?
母:ダメよ!もうこれ以上大きくならないで!お願いだから!
母の叫びは思春期の私の心にとても重たい石となって残った。その日から私は、母に言われた通り朝しか食べない生活になった。朝、サラダとヨーグルト、栄養を補うサプリメントだけ。給食はどんなにお腹が空いても食べずに残した。
数か月経ったある日、私はとうとう教室で倒れ、救急車で病院に運ばれた。ちょうど海外から戻ったばかりの父が母と一緒に病院に駆け付けた。

ラブドール

医者:娘さんは重度の栄養失調です。なぜこんな状態まで放っておいたんですか?
父:栄養失調ってどういうことだ?アリスはあんなに細かいのにダイエットでもしているのか?
母:違うわ。成長を止めてるだけ。
父:何だって?大事な成長期じゃない。かちゃんと食べさせないと
母:だめよ!これ以上大きくさせたくないからやってるのに!
母の必死さに父も(何かおかしい)とやっと気が付いたそうだ。父は母が私を溺愛していると信じ子育てはほぼ母に丸投げして自分は仕事に打ち込んできた。母の私に向ける愛が歪んでいることを知らずに。
父:アリすは人形じゃない。今は大人の体になる大事な時期なんだ。
母:そんな時期、アリスには必要ないわ!
父:必要なんだ!今しっかり食べさせないと大人になった時に辛くなるのはアリスなんだぞ!
母:これ以上大きくさせる気!?それならあの子なんていらない!
母の強い拒絶に父は言葉を失った。もう母と夫婦としてやっていけないと思うと同時に父は今まで私を放置していたことを悔いた。父は母に別れを切り出し、母も「娘に裏切られた気分」と父に言い残して家を出ていった。

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父は会社を辞め、自宅でできるフリーランスの仕事を始めた。私は体調が回復し、家に帰ったころに母が出ていったことを知った。
父:今まですまなかった。
父は私に深く頭を下げた。けれど私こそ謝りたかった。だって母が出ていったのは私のせいなのだから。母の望む娘になれなかったから。両親が離婚したのだ。
アリス:私のせいだ・・全部。
私は自分の存在が嫌で仕方なく、もういなくなってしまいたいと毎日考えるようになっていた。学校に行かず家にひきこもり、母の居場所を探そうと考えたり、置いていった母を恨んだりと不安定な日々を過ごしていた。

そんなある日、父が私の部屋に来て
父:アリス、服を買いに行こう。アリスの好きな服、着たい服を買おう。
クローゼットには母が選んだロリータ服ばかりで、私が選んだ服は一着もなかった。好きな服、着たい服を着ていい。父の言葉に促され、私はやっと立ち上がることができた。私はショッピングモールでいろんな服を身て、試着をして気に入ったのを何着も買った。
父:似あうね。とても可愛いよ。
父に褒められて心が少し軽くなる。前は許してもらえなかったジーンズやスニーカー、今ならどれを着ても何を履いてもいいのだ。
ふっと縛られたものが一気に解き放たれた感覚がして、私は泣いてしまった。自分の服を選ぶという当たり前のことすら、今までできていなかったということに気付いて。
それから、私は自分について考えるようになった。好きな物や嫌いなもの、どんなことをしたいのか、何をしたくないのか。休んでいた学校にも通えるようになり、友達もでき、私は徐々に母のことを考えなくなっていた。

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ある日、学校から帰ると父が友人の雑誌編集者を家に連れて来ていた。
父:アリス、モデルの仕事に興味はある?
なんでも、前に父と出かけた時に背の高い私を見かけて、それ以来ずっと父にモデルの話をしてくれていたらしい。私は戸惑ったが、雑誌の撮影現場が気になり、見学に行くことに。洋服は元から好きだったので、撮影の様子は見ているだけで楽しく、その見学した一日で、プロのモデルのかっこよさに憧れてしまった。私の身長は175cmだが、モデルになればそれは長所に変わる。ずっと嫌だったせの高さが認められる世界に、私は踏み込んでみたくなった。
それからは一気に話が進み、私は父の友人の紹介でモデル事務所のオーディションを受け、合格した。毎日ポージングやウォーキングのレッスンを受け、初めて雑誌に載った時は本当に嬉しかった。
コーチ:アリスくらい身長があれば、海外のコレクションも目指せるね。
海外のモデルは175cm以上あり、私よりもっと大きい人もいるらしい。モデル仲間からもこの高身長を羨ましいがられ、あれほど苦しめられた身長のコンプレックスが今では自分の長所になっているのだ。

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モデルを始めて2年たち、仕事も増えて雑誌の表紙も飾れるようになった。私は高校生になり、毎日忙しくも充実した日々を過ごしていた。そんなある日、ずっと音信不通だった母から電話があった。
母:アリスちゃん、あなたモデルになったって聞いたけど。
親戚が雑誌の表紙を飾った私を見かけて母に伝えたそうだ。母の声を数年ぶりに聞いたが、動揺したのは最初だけだった。母はモデルになった私を誇らしげに言いながらも、掲載されたファッション誌が下品だと文句を言う。
母:今は背が高くても着れる可愛いお洋服もあるんですって。クラシカルロリータなんかは背が高いほうが映えるなんて言われててね。今度そういう雑誌に出てはどうかしら。
アリス:ママは成長しないんだね。
母:え?
アリス:ずっと成長せず、その可愛い世界に留まっていて。そこから出てこないで。そして二度と私の世界に入れると思わないで。
さようなら、と告げて私は返事も待たず電話を切った。ずっと想像していた母との会話はあまりにも呆気なく、けれど心の底からほっとした。もう自分は母の人形ではないことを実感できたから。
その後、母から連絡はない。母が今何をしているのか知らないが、私には振り返りたくない過去の人だ。母は母の世界で生きるといい。モデルの夢を持ち、未来に生きていく自分にはもう関係ないのだから。